未知の野菜を食す/ドイツ版さつまいも(?)
味覚の秋。ドイツでの生活も早半年が過ぎた、秋も深まる11月のある日、私はある欲求を抑えられずにいた。
ホックホクのさつまいも、食べたい。
生まれてこのかた日本食で育ったので、舌があのホクホクねっとりした甘味をすっかり覚えてしまった。焼き芋、さつまいもご飯、大学いも…。毎年秋が来ると「今年も、食べたくなーい?」と食欲が脳内に訴えかけてくる。だがここはドイツ。日本と同じ野菜が手に入るとは限らない。
しかし食欲とは時に、人間(私)の重い腰を上げるのに一役買う。
「ダメもとで、探してみようよさつまいも」
そこまで上手くない五七五で私を奮い立たせる。私は財布と買い物袋を携え近所のスーパーへ向かった。
野菜コーナーをくまなく探す。あるとしたらやはりじゃがいもコーナーの近くか…。ご存知の通りドイツでは、じゃがいもが"芋界隈"で長年覇権を握っている。どんなに小さなスーパーでも、じゃが達は個数単位ではなくキロ単位で売られており、しかも色々な種類がある。レストランでメインディッシュを頼むと大体皿の半分はフライドポテトかローストポテトが占めているし、ドイツ人の胃袋をがっちり掴んでいるのだ、じゃがいもは。
だが私が探しているのは君たちではない。記憶の中のさつまいものあのシルエットを頼りにを続けていると、
あったあった!
じゃがいもの斜め下、商品棚の一番下に、両端が急にすぼまった、いびつだが愛らしいフォルム。目立たないすみっこに追いやられているあたり、彼らのドイツでの肩身の狭さを感じる。想像よりだいぶ色素の薄い茶色の皮に包まれているが、商品名は、"Süßkartoffel"(甘いじゃがいも)。じゃがいものネームバリューにあやかろうとしているような気がしないでもないが、形も名前もなんともさつまいもっぽいではないか。とりあえずお試しで小さめのを二つほど購入した。

家に帰って早速割ってみる。(桃太郎?)

ん、オレンジ???
皮の色素が薄いので、中身も薄めの黄色を勝手に想像していたら、着色料でも使ったのかというようなゴリゴリのオレンジ色で面食らってしまった。完全に予想外である。そして日本のさつまいもと比べて断面がみずみずしい気がする。なんだか、「ホクホクねっとり」の感動をこの芋たちから味わうことができるのかが怪しくなってきた。君たち、本当に私の知るさつまいもなのか…?
半人半疑だが、とりあえず一口サイズに切って、レンチンしてみた。

オレンジみが増して、なんだか人参らしさが出てきた。かぼちゃっぽくもある。これだけ見てさつまいもだと思う日本人はいないだろう。(ちなみにドイツ人彼氏も、この写真をチラ見して「キャラメル?」と言ってきた。ドイツでのさつまいもの認知度の低さが分かる。)
熱は通ったので、一縷の望みをかけて一つ食べてみた。
うん、甘いじゃがいも。
確かに甘みがあって美味しいが、自己主張してこない。飲み会の席で全く話さないけどなんかそこにいる人くらいの存在感だ。残念ながらねっとりもホクホクも感じられない、淡白な食感。彼らは決して、じゃがいものネームバリューに乗っかって甘いジャガイモと名乗っていたのではなかった。本当に、じゃがいもの甘い版だったのだ。
残念でした、ちゃんちゃん!では私の食欲に面目が立たないので、これで最大限美味しいものを作ることにした。日本のさつまいもを期待していたからその差にがっかりしただけで、「ドイツの甘いじゃがいも」と思えば十分に魅力的な食材だ。
冷蔵庫にあった鶏もも肉と、玉ねぎを切ってバターで炒め、小麦粉をまぶして牛乳を加える。
人参、じゃなかった、さつまいもを加えてとろみが出るまで混ぜる。
耐熱容器に入れてチーズを載せ、オーブンでチーズに少し焦げ目がつくまで焼いていく。

バジルを散らして完成。
ドイツ版さつまいものグラタン。
「チーズがかかっていれば中身がなんであれ美味い」を普段から提唱しているので、グラタンにしてみた。お味の方は、意外にもさつまいもの優しい甘味とチーズの塩加減が絶妙にマッチしてとても美味しかった。彼氏からも好評だった。
私の求めていたさつまいもではないが、最終的に新たなお気に入り野菜の仲間入りをしたSüßkartoffel(ドイツ版さつまいも)。日本に帰ったらお腹いっぱい「ホクホクねっとり」を堪能するとして、ドイツにいる間はこの芋と仲良くやっていこうと思った次第である。